真空管アンプの使用上の注意と管理

 

1.劣化と消耗について 

(1) 真空管

 真空管はアンプの中で特に多くのストレスを受ける部品です。真空ガラス管に高電圧(プリ管で150V250V、パワー管は390V420V)がかかっており、電気的ストレスと熱ストレスのより劣化が激しいのです。反面、電気を流してさえいなければ長期間、良好な状態を維持できます。何十年も前に製作された真空管でも、未使用で良い状態で保存されていれば、新品と同様に使用できます。

 新品のまま長期保管されていたものを NOSNew Original Stock)と言うのですが、過去にRCAMullardが製作した真空管が現在NOSとして高値で売られているのは、今でも使えるからです。 ただし、NOSの供給には限界があります。無理をして入手しても、その次に入手できる保証はありません。

 パワー管の交換の際は、ロシア製には手を出さないほうが無難でしょう。メーカー指定品を使用することをお勧めします。

 

(2) その他の部品 

 真空管は古い物でも使用可能ですが、「使用していようがいまいと、年月とともに確実に寿命が尽きる」部品があります。仮に、アンプにカバーをかけて未使用のまま大切に保管していたとしても、ひょっとすると10年も経たないうちに(長くて20年後)には使えなくなる部品があります。やっかいなことに、通電してアンプを使っているよりも通電せずに保管していた場合の方が、寿命が短かかったりします。

 その代表的部品がコンデンサです。特に、アルミ電解コンデンサは時期が来れば必ず交換すべき部品ですが、現行の真空管アンプでも安価なものには未だにこれが使用されていることがあります。理由は、400Vという高電圧に耐え得るコンデンサの中で、最も安価で代替品の入手が容易だからです。他方、値段は高いけれども(アルミ電解コンデンサの約10倍)、フィルムコンデンサという優れモノがあり、こちらは使用しなければ、基本的に損耗しません。高級アンプには、たいてい要所要所にフィルムコンデンサ等が使われているので、頻繁なメンテナンスをしなくて済みます。

 

2.使用と保管  

 (1) 使 用

 真空管アンプを使う場合は。次のことを守るように心がけてください。手順を無視すると故障します。わざわざこれを書く理由は、大多数の真空管アンプの説明書に(常識だとみなされているからでしょうか)、注意書きとしてこのことが記載されていないからです。

 

 

・真空管式アンプには、主電源スイッチとスタンバイスイッチがあります。ブラウン管式テレビと同じです(と言っても、もはや過去の遺物ですが)。 電源を入れるときは、必ずスタンバイスイッチをOFFの状態にしてから(その状態であるのを確認してから)、ONにしてください。

・主電源の投入後、気温に応じて30秒~1分の暖機時間をおきます。その後スタンバイスイッチをON(スタンバイ解除)にします。

・スタンバイを解除するときは、アンプの操作パネル上にあるどのノブ(つまみ類)は、どれも最小(たいてい左に回し切った位置)にしておきます。とくに“Volume”または“Master”ノブを上げたままスタンバイを解除すると、真空管に大きな負荷がかかり寿命を早めたり、故障の原因になります。

・スタンバイを解除した後、音を出すまでの手順は、“Tone”ノブを中央(ニュートラル位置)まで持って来ます。

 次に、Gainノブがある場合は、これを最大から4分の1程度の位置へ右に回します。

 その後、VolumeまたはMasterノブを5分の1(または4分の1)程度の位置へ右に回します。

1分程度、上記の状態で弾いた後は、好みの音量や音質を得るため、どのノブをどの順番で操作しても支障はありません。

 

(注) Gainノブはプリ管の、Masterノブはパワー管の出力を調整するためのもの。上の記述のうち最後の2項目については、強いて行わなくても結構ですが、この手順を踏んでいるとアンプが長持ちします。

 

・電源を切るときは、上記と逆の手順で行います。すなわち、

 

VolumeまたはMasterノブをゼロの位置へ→ ②Gainノブをゼロの位置へ→ ③Toneノブ(やリバーブ等のノブ)をゼロの位置へ→ ④スタンバイスイッチをOFF→ ⑤(ファンのあるモデルは約12分後に)主電源スイッチをOFFという手順になります。

 

 なお、真空管式アンプは概して放熱対策が十分になされていません。どのモデルであっても、連続使用はできるだけ短時間に止めておくことが肝要です。目安は最大でも23時間。それ以上連続使用するとき(また、気温が25度以上の場所で)は、扇風機などを使って、適度に冷風のあてることをお勧めします。望ましいのは、いったん電源を落として冷ますことです。

 

<備考>

・どの真空管式アンプも、スイッチを入れて概ね30秒間は音が出ません。これは正常な状態です。

・起動後、チリチリという小さな音が聞こえる場合がありますが、これは真空管が熱せられる過程で生じる音で、異常ではありません。

・小型の真空管アンプでは、しばしば低音のブーンというhum音が小さく聴こえますが、これも「異音」には当たりません。中、大型アンプでも古くなると同様の音が出やすくなります。

・故障か機能不全が疑われるアンプの真空管が、電球のようにオレンジ色に明るく灯っていたら、少なくとも真空管は正常だとみなせます。

・同様の状況で、真空管が青光りし始めたら過大な電流が流れている証しです。コンデンサか抵抗またはトランスの機能不全による回路の故障が考えられます。やがて、シューッと唸り出すはずですが、これは破裂の兆しなので、速やかに電源を落とし、しばらくその場を離れて近寄らないこと。修理が必要です。

・アンプに通電して故障が疑われる場合、電気知識のない人には直せません。メーカーまたは信頼のおける修理業者に修理してもらってください。真空管、トランス、プリント基板以外の故障なら、修理費用は些細な額で済みます。

 

(2) 保 管

 真空管式アンプに限らず、電気器具は湿気と熱に弱い。人が快適と思われる環境下で保管するのが最も良いのですが、大きな物なので居間や寝室にずらっと並べるわけにもいきません。そこで分散保管する場合も多いと思うのですが、その際、次のことを守るといいでしょう。

・初夏から初秋までの間、直射日光に10分以上、当ててはいけません。(窓越しでも同様)

・その他の季節も、表層のカバーやパネル、ノブ類の光酸化が進むので、直射日光は窓越しでも当てない方がいいでしょう。

・湿度が常時70%以上あるような場所に長期間保管してはいけません。全部品の酸化が進み機能障害を起こす可能性が非常に高まります。基盤はプラスチックですが、酸化と合わさると漏電リスクも高まります。

・湿気を除くために風通しの良い場所に保管すること。困難な場合は、定期的に各々のアンプに対し、順次風通しの良い状況を作ること。風当ては、できれば1月に一度。面倒なら23カ月に一度でもかまいませんが、天気の良い日を選ばないと効果がありません。

・アンプの背面開口部に、シリカゲル等の乾燥材(または米粒、ティッシュペーパー、トイレットペーパーを束ねたもの、新聞紙など)を入れておくと除湿・防湿効果があります。当然ですが、アンプを使用するときは、当然ですが引火の恐れがあるので紙類は取り除くこと。